重要文化財に隣接する好立地
深い山里にひっそりと佇むレストラン。高蔵寺観光もさることながら、自然の中でゆっくりと料理を味わう楽しみも。
宮城県南部に位置する角田(かくだ)市のキャッチフレーズは、「古代平安文化の香りをとどめ、明日の宇宙を拓くまち」。市内には純国産H-Ⅱロケットの実物大模型や宇宙関連の研究・開発施設がある一方、悠久の歴史を感じさせる寺社・遺跡などが多数残されています。
今回お訪ねしたレストランも、宮城県最古の木造建築で、国指定の重要文化財である「高蔵寺(こうぞうじ)阿弥陀堂」(1177年建立)に隣接し、さながら高蔵寺観光のための“お食事処”のような好立地です。
オーナーのOさんは、長年、地元の大手レストランや葬祭会館などで総料理長を掛け持ちするなど、一流の料理人として大車輪の活躍をしてきました。とはいえ、20代の頃から「いずれは自分の店を持ちたい」という夢を抱き、50歳を機に「60歳までの10年間は楽しみながら商売をしたい。思い切ったことをやってみよう!」と、独立開業を決意。10代からの古い友人である工務店社長に、店の新築を相談したのだそうです。
かくして“旬味れすとらん”と銘打ったお店は、2007年3月にオープン。以来、季節を問わずお客様がひっきりなしに訪れる、人気店となっています。
地場産食材で作る自慢の料理を、心地よい空間で
Oさんご自身は、開店の2年前から計画し、構想を温めていた店舗設計ですが、工務店社長に相談を持ちかけたのは、着工のわずか4カ月前のこと。驚き呆れながらもK社長は、「多くのお客さんが気持ちよく食事をするためのレストランなら、FP工法しかない!」と、Oさんに薦めました。実は約20年前、Oさんのご自宅を建てたのもK社長ですが、当時はまだ「FPの家」を手がけておらず、最初はOさんも「FPって何?」と半信半疑だったそうです。
ところで、Oさんがお店を持つに当たっては、次のような3つの構想がありました。
「ひとつは、両親が畑で育てた季節の自家製野菜をメインに、和洋ミックスの創作料理を提供すること。料理とともに、四季の風景や手つかずの自然を楽しめる場所にしたいこと。もうひとつは、築100年を超えた古民家から出た古材や建具を利用して、古民家風の造りにしたいということだったね」
果たしてこれらのご希望は、すべて叶えられたのでしょうか…?
まずお店の造りですが、建築に取りかかる2年ほど前に古民家の解体現場からもらったという古材は、大空間に趣を添える「化粧梁」として、独特の味わいと存在感を与えています。さらに、土蔵の入口にあった扉は、お店の看板として生まれ変わりました。
また「天井を高くして、広さと高さのある大空間に」というご希望通り、天井までの高さは5.5m。「FPの家」だからこそできる快適な空間です。「冬もエアコン1台で十分暖かいのには驚いたね。恐らく在来工法だと、光熱費は3倍くらいかかるんじゃないかな。今なら“FPってこんなに違うのか”とよくわかるね」とOさん。当初の不安も嘘のようです。
自然を楽しみながら、ゆっくりと料理を味わう贅沢
もうひとつ、料理人のOさんがこだわったのは、当然ながら厨房スペースです。Oさん1人ですべての調理を行うため、フライヤーなどの設備は大型のものを導入し、また一度に何十人分もの料理を並べられる広い調理台も確保しました。営業時間は11時から14時まで、夜は完全予約制ですが、宴会や法事なども多く、これまでの最高は一度に43人分のお料理を提供したそうです。
というわけで、相談を受けた際、「こんな辺鄙な場所で…」といぶかったK社長の心配も杞憂に終わり、オープン以来、予想以上の大繁盛です。折良く開店直後には地域の味覚をテーマにした大型観光キャンペーンが始まったことや、角田市の地産地消推進店の第1号店になったこともあり、県内はもちろん、全国からのお客様にも広くアピールできたのです。
もちろん、一番のご自慢はOさんが腕によりをかけて作る創作料理。ご両親が手塩にかけた野菜は、夏場のキュウリ、トマトなどをはじめ、冬でも蕪、白菜、ヤーコン、水菜、小松菜など、実に多種多彩。スーパーの店頭にはない珍しい野菜を味わえるのも評判で、地場産野菜を使ったヘルシーな料理は大人気です。
また、お客様にとって居心地のいい空間であることを証明するように、リピーター客も多いとのこと。「周囲の自然がいいから、写生やスケッチ、写真撮影のために、四季ごとに足を運んでくれるお客様も多いからね」と謙遜するOさん。
「これからも研究を重ねてお客様に喜んでもらえる料理を提供していきたい。もっと大人数に対応できるよう、できれば増築もしたいね」と意欲満々。長年鍛えた腕と味覚はもちろん、Oさんの商売に対する嗅覚にもますます磨きがかかっているようです。
くつろぎの空間でおいしい料理に舌鼓。宴会で鍋料理をすると、エアコンなしでも暖かいという。
古材の味わいを活かした柱や梁、建具が、趣ある風情をつくりだしている店内。お客様が長居したくなる気持ちがよくわかる。
取材中も「地場産野菜パスタ」を、実に手際よく調理するOさん。