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住まいのコラム

2025年6月11日

上がり框(あがりかまち)とは?役割・選び方・デザインのコツを解説

玄関は、家族が毎日出入りし、お客さまを迎える「家の顔」ともいえる大切な場所です。だからこそ、見た目の美しさはもちろん、使いやすさや心地よさにもこだわりたいと考えている方も多いでしょう。

玄関の見た目や機能性の向上におすすめなのが、上がり框(あがりかまち)です。

この記事では、上がり框の基礎知識のほか、素材・デザイン・高さを選ぶときのポイントや機能性とデザイン性を両立する玄関作りの工夫を解説します。

上がり框(あがりかまち)とは

上がり框とは、玄関の土間と室内の床の境目に設けられる横木のことです。靴を脱いで家に上がるという日本の暮らし方を象徴しており、外と内とを明確に分ける役割を果たします。また、日本家屋ならではの迎え入れる文化や美意識が表れる装飾でもあります。

床材の断面を隠して仕上げを整える機能もあり、玄関の印象を決めるデザイン要素としても重宝されています。

実用性はもちろん、暮らしのなかにある心づかいやもてなしの気持ちを映す、まさに住まいの顔といえる存在です。

上がり框の役割・メリット

上がり框の役割・メリット

現代の住宅では、バリアフリーや洋風デザインの普及にともない、玄関の段差を最小限にする傾向が見られます。それでもなお、上がり框を採用する家庭があります。なぜなら、単なる「段差」ではない、上がり框ならではの役割やメリットがあるためです。

ここでは、なぜ上がり框が現代の住宅に取り入れられているのかを深掘りするために、役割やメリットを紹介します。

床と足を保護する

玄関は、荷物の搬入や靴の出し入れ、人の出入りなどにより、とくに傷つきやすい場所です。ダメージを受けた床は、見た目が悪くなるだけでなく、素足で歩いた際にけがをする危険もあります。

こうした摩耗や衝撃から玄関の床を守るために設置されるのが上がり框です。硬くて丈夫な素材で作られた框は、段差の縁をしっかりと保護し、床全体の耐久性を向上させます。

土や砂が室内に入るのを防ぐ

靴裏の土や泥をしっかりと落としてから玄関に入っても、細かい砂やホコリはどうしても残ってしまうものです。上がり框があると、汚れが土間部分に落ち、リビングなどの床まで広がるのを防ぎます。

さらに、框の出っぱり部分にゴミがたまりやすい構造になっており、掃き掃除もしやすく、玄関をより清潔に保てます。

靴を脱ぎ履きしやすくする

段差があることで、腰をかけたり、体を安定させて靴を着脱できたりするのも、上がり框のメリットです。

とくに高齢者や小さな子どもにとっては、バランスを取るのが難しく、靴の脱ぎ履きで転倒することも少なくありません。上がり框があると、段差に腰を掛けられるため、安全かつ楽に靴を脱ぎ履きできます。

椅子の代わりになる

上がり框は椅子の代わりとしても役立ちます。たとえば、玄関に椅子を置けない住宅でも、上がり框を設置することで、限られたスペースで腰をかけられる場所を作れます。少し腰をかけられる場所があると、靴の脱ぎ履きなど楽になることが増え、暮らしがより快適になるでしょう。

玄関の見た目にアクセントを加える

上がり框は、玄関に彩りを添えることも可能です。たとえば、モザイクタイルの使用や変形コの字型の施工など、見た目にもこだわることで、玄関の印象をガラッと変えられます。

上がり框に用いられる素材

上がり框は、住まいの印象を変えるだけでなく、使用頻度が高く耐久性も求められる部材です。そのため、見た目の美しさだけでなく、機能性や手入れのしやすさも素材選びのポイントです。

ここでは、上がり框によく使われる代表的な素材について、それぞれの特徴を解説します。

木材

もっとも一般的で、昔から多くの住宅に使われてきた素材が木材です。室内のフローリングと自然になじみやすく、やわらかな風合いで玄関を落ち着いた雰囲気に仕上げられます。

素材としては、天然木をそのまま使用する「無垢材」と、加工して強度を高めた「集成材」が主流です。無垢材は肌触りや風合いに優れている一方で、価格はやや高額です。予算を抑えつつ木の質感を楽しみたい場合は、集成材の表面に銘木を貼った「突板」を選びましょう。

石材

上がり框に石材を使うと、高級感のある洗練された玄関を演出できます。見た目の美しさに加え、耐久性があるため、デザイン性と実用性を兼ね備えた素材として人気です。

代表的な天然石には、美しい模様が特徴の大理石や、色合いの豊富な御影石などがあります。色合いや模様に個体差があるため、ひとつとして同じものがなく、玄関に個性と存在感を与えられます。

一方、人工大理石は樹脂を含む人工素材で、天然石のような質感はやや劣りますが、耐水性が高く、価格も抑えられます。扱いやすさを重視するなら、人工大理石がおすすめです。

タイル

近年、注目されるのがタイル素材です。色や質感、形状のバリエーションが豊富で、好みに合わせたデザインにしやすいのが魅力です。土間と同じタイルを使えば、玄関に統一感を演出できます。

上がり框の形

ここでは、代表的な上がり框の形の特徴を紹介します。

直線タイプ

直線タイプは、もっともシンプルな形状です。玄関の正面にまっすぐ取り付けるスタイルで、和風・洋風を問わず、さまざまな住宅に自然に馴染みます。また、構造上施工しやすく、施工コストを抑えたい場合に適しています。

斜線タイプ

斜線タイプは、上がり框を斜めに配置し、狭い玄関でも開放感を演出できる形です。直線部分が長くなるため、複数人で靴を脱ぎ履きする際にも十分なスペースを確保できるメリットがあります。

L字タイプ

L字型は、2方向から室内に上がれるデザインが特徴的な形です。2方向あるため、来客用と家族用で動線を分けるなど、上がり框の使い方の幅が広がります。また、回遊性のある間取りとも相性が良く、動きのあるレイアウトを取り入れたい方におすすめです。

曲線タイプ

曲線タイプは、曲線を描くように設けられた上がり框で、やわらかく優美な印象を与えます。S字やアールを描く滑らかなラインが、玄関に動きと遊び心をもたらし、個性的な玄関を演出できます。

変形タイプ

変形タイプ

「through DOMA stay DOMA」~通り抜ける そして集まる~ 佐賀県/(株)ジョージホーム

変形タイプとは、上記のどの形にも当てはまらない、住宅ごとに自由設計された上がり框です。変形タイプの大きな魅力は、完全オリジナルで設計できる自由度の高さにあります。玄関の形状や使い方に合わせて設計することで、利便性とデザイン性を両立できます。

こちらの記事では、ファミリー玄関について解説しています。 設計する際のコツと事例3選も取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。

上がり框の高さの決め方

玄関を快適かつ安全に使うには、素材やデザインだけでなく、上がり框の高さも重要な設計ポイントです。

上がり框の高さは、150mm〜180mm前後が採用される傾向にあります。しかし、最適な高さは家庭の事情によって異なり、10mm〜300mmの範囲で調整されるのが一般的です。

高さ違いにより、使いやすさや安全性が変わるため、慎重に判断しましょう。

子どもや高齢者も使うか

家族に小さな子どもや高齢者がいる場合、段差が大きすぎると転倒やつまずきの原因になります。

たとえば、車椅子を利用する家族がいる家庭では、段差のないフラットな玄関にするとよいでしょう。あわせて、上がり框も10mm〜20mm程度に抑えることで、移動のしやすさと安全性を両立できます。

一方で、自力で靴の脱ぎ履きをする場合は、ある程度高くすることで腰かけて使いやすくなります。このケースでは、上がり框が低すぎると不便に感じるケースもあるため、設計する際は注意が必要です。

今までの住まいの高さはどうだったか

上がり框の高さを決める際に見落としがちなのが、以前住んでいた家の玄関の高さです。

たとえば、一般的な賃貸住宅や分譲マンションでは、上がり框の高さが50mm〜70mm程度と比較的低めに設定されています。長年その高さで生活してきた人にとっては、戸建て住宅で標準とされる150mm〜180mmの段差は、高くて使いにくさを感じるでしょう。

段差は、見た目以上に日常の動作に影響します。慣れている高さをひとつの指標にしつつ、今後の生活スタイルや家族構成を踏まえてバランスよく検討することが大切です。

上がり框の段差は後からカバーできる

上がり框の高さを決める際「段差が高すぎて使いにくくならないか」「年を重ねたときに支障が出ないか」と不安な方もいるでしょう。しかし、上がり框の段差はあとからでも調整できるため、設計段階で過度に心配しすぎる必要はありません。大切なのは、将来のライフスタイルや身体の変化にあわせた調整ができるかどうかです。

たとえば、段差の上り下りが不安になった場合は、手すりを設置することで安全性を確保できます。また、上り下りの負担が懸念される場合は、式台を設置し、段差を分割すると効果的です。たとえば20cmの段差でも、12cmの式台を使うことで一段あたりの高さを軽減でき、安全に上り下りが可能です。

ほかには、玄関にベンチを置いて座れるようにすると、靴の脱ぎ履きがぐっと楽になります。とくに、収納付きのベンチは省スペースで実用性も高く、玄関のインテリアとしても活躍します。

上がり框の施工事例3選

ここでは、実際に「FPの家」で施工した住宅のなかから、上がり框のデザインが美しい3つの事例を紹介します。

木と石材のコントラストが美しい上がり框

木と石材のコントラストが美しい上がり框

家族との時間を満喫する住まい 富山県/(株)山下ホーム

富山県の「家族との時間を満喫する住まい」では、玄関土間から上がり框に黒系のシックな石材、床には明るい茶色で自然な温もりのある木材を使用し、素材と色のコントラストが美しい仕上がりとなっています。自然色の色使いと大きな窓からの採光によって、見た目の広さ以上に開放感をもたらしています。

広々とした玄関に存在感のある上がり框

広々とした玄関に存在感のある上がり框

すみごこちのいい平屋で心豊かに暮らす 静岡県/(株)建築工房相良

静岡県の「すみごこちのいい平屋で心豊かに暮らす」を目指して作られた住まいの玄関では、幅広の上がり框が土間と床の境界を素材と色使いによりはっきりと区切り、空間にメリハリをもたらしています。上がり框が広い玄関の中でもしっかりと存在感を放ち、単なる区切りではなく、視覚的なアクセントとして機能している点が魅力です。

式台と手すりで高齢者や子どもも使いやすい上がり框

式台と手すりで高齢者や子どもも使いやすい上がり框

将来を見据えたプランも室内環境もバリアフリーな住宅 大阪府/(有)ファーストプランテクノ

大阪府の「将来を見据えたプランも室内環境もバリアフリーな住宅」では、高齢者にも子どもにもやさしい使いやすさと安全性にこだわっています。上がり框から玄関の床に続く段差の高さを和らげるため、広々とした式台と手すりを設け、家族全員が安全に使えるよう配慮されているのが特徴です。

式台や手すりは追加できますが、初めから床との色味や素材をあわせることで、空間に溶け込む見た目に仕上がっています。

理想の玄関を作るための上がり框のポイント

ここでは、機能性と見た目を両立した上がり框を作るためのポイントについて解説します。

すっきりさせたいなら細く・存在感を出したいなら太く

框の太さは、空間の雰囲気に合わせて自由に選べます。

玄関全体をすっきりとシンプルに見せたい場合は、細めの上がり框を選ぶとよいでしょう。細い框でも、色や素材を変えることで、存在感を強調しつつ、空間の境界を明確にできます。一方で、重厚感や安定感を求める場合は、太めの框がおすすめです。

床材との統一感を意識する

上がり框の印象は、隣接する床材とのバランスで変わります。玄関ホールや土間の素材・色味に合わせて框を選ぶことで、空間に自然なつながりが生まれ、心地のよい一体感を作り出せるでしょう。

たとえば、無垢材のフローリングに合わせて、同じ無垢材で框を選ぶと温かみのある統一感が得られます。一方で、床材と異なる素材や色の框を選ぶことで、玄関を個性的で印象的な空間に変えることも可能です。金属や石、濃淡のはっきりした木材などを用いると、玄関の印象がぐっと引き締まり、デザインのアクセントとして機能します。

どの素材や色を選ぶかは、玄関全体のデザインテーマに合わせて選ぶとよいでしょう。

安全性を考慮する

上がり框を設計する際は、使う人の安全を守るための工夫も必要です。

とくに、石材やタイルなどの硬い素材は、頭や体をぶつけたときの衝撃が大きく、思わぬケガにつながるおそれがあります。また、こうした素材は濡れると滑りやすく、雨の日の転倒リスクも高まります。

そのため、小さな子どもや高齢者がいる家庭では、滑りにくい表面仕上げを選ぶなど、安全性も考慮しましょう。

におい対策をする

玄関を清潔かつ快適に保つうえでは、上がり框や玄関のにおい対策も重要です。

玄関は、汗や汚れのついた靴が集まりやすく、菌の繁殖によって不快なにおいが発生しやすい場所です。さらに、雨の日の濡れた傘や長靴によって湿気がこもりやすくなります。履いたばかりの靴や濡れた靴は、十分に乾燥させてから収納しましょう。

「FPの家」カタログ・資料請求は、こちらからお気軽にお問い合わせください。

まとめ

上がり框は単なる段差ではなく、玄関の快適さや印象を大きく左右する重要な要素です。新築時には、家族構成や将来を見据えた安全性を考慮し、ライフスタイルに合った上がり框を選ぶことが大切です。

毎日出入りする場所だからこそ、機能性とデザイン性を両立させた上がり框を設計し、より快適で魅力的な玄関空間を作りましょう。

「FPの家」では、お客さまのライフスタイルや地域の気候に合わせて、細部までこだわった住まいをご提案します。上がり框の施工実績も豊富で、デザイン性・機能性を重視した上がり框を手がけています。

高い性能と快適な住み心地、デザイン性を両立した家づくりを目指したい方は、ぜひ「FPの家」にご相談ください。